MSC認証プログラムとMSC「海のエコラベル」を通じて、水産資源と環境に配慮した持続可能な漁業の普及に取り組む国際的な非営利団体MSC(海洋管理協議会)は、持続可能ではない漁業がまだ多くあるために世界で失われたタンパク源は、年間7,200万人分に上ると発表しました(注1)。
水産物は重要なタンパク源であり、多くの人々の食生活に欠かせません。世界の33億人以上が、1日の動物性タンパク質摂取量の少なくとも20%を水産物に頼っています(注2)。
世界の人口が増加するにつれ、貴重な天然水産資源への漁獲圧力が高まってきています。世界の水産物消費量は、この30年間で122%も増えています(注3)。水産資源の3分の1以上が持続可能な限界を超えたレベルで漁獲されており、この傾向は徐々に悪化しています(注4)。
しかし、最新の推計では、世界の漁業がより適切に管理されていれば、年間漁獲量はこれまでより少なくとも1,600万トン多くなり、急激な増加を続ける世界人口の食糧供給に役立てられたはずだとしています(注5)。MSCの分析では、持続可能な漁業慣行が世界中で導入されれば、1年間に必要なタンパク源7,200万人分の増加が見込めます。
2050年までに世界の人口は100億人に達すると予測されており(注6)、すべての人々が健康な食生活を営むためには、持続可能かつ公平な食糧生産を早急に進めなければなりません。漁業を適切に管理することで、水産資源と生態系の回復を促し、漁獲可能な水産物を持続的かつ永続的に増やしていくことができます。
これについて、MSC科学・規格最高責任者のロハン・カリーは次のように述べています。「過剰漁獲への取り組みは、自然との共存共栄にとって不可欠なことです。豊かな海洋資源を守ることによって、より多くの人々が、健康な生活を維持するために必要なタンパク質を摂取できるようになります。持続可能な漁業を実現するためにどのような方法を選択すればよいのかは、すでにわかっています。今必要なのは、世界各国が協力して、すべての海域、国境、魚種を対象にそうした漁業慣行を実行しようとする意志です。未来の世代には、持続可能な食料源を得る権利があります。世界の人口が増加していく中で、責任ある天然資源の利用はこれまで以上に急務となっています。」
近年、より多くの漁業が持続可能な漁業慣行を導入するようになりました。2020年には、世界で409の漁業が持続可能な漁業認証規格であるMSC認証を取得しており、さらに89の漁業が認証審査中です(注7)。MSC認証を取得するためには、漁業資源が健全な状態にあり、環境への影響を最小限に抑え、適切な管理システムが講じられていることを実証できなければなりません。
しかし、変化を加速させるためには、各国政府が科学的な提言に則った漁獲許容量を徹底させ、IUU(違法・無規制・無報告)漁業への取り組みを強化し、世界で過剰漁獲を助長している有害な補助金を確実に排除することで、漁業を支援することが求められます。
注記
注1: 数値は以下に基づいて算出
- 世界の漁業がより適切に管理されていれば、年間漁獲量は今よりも1,600万トン以上増えることが見込まれる(コステロ他による)。
- 1,600万トンの水産物のうち、130万トン以上は食用タンパク質(82%を人間が消費した場合、そのうちの10%が食用タンパク質)。
- これは、1人あたりの年間推奨タンパク質摂取量の7,200万倍(1日の推奨摂取量を50gとした場合、年間18.25kg相当)である。
注2: 国連食糧農業機関(FAO)「世界の食料安全保障と栄養の現状」2020年版(英語)
注3:FAO「世界漁業・養殖業白書」2020年版(英語)図2
注4:FAO「世界漁業・養殖業白書」2020年版(英語)図19
注5: コステロ他「対照的な管理体制の下における世界の漁業の見通し」(英語)
注7: 「MSC年次報告書2019年度 持続可能な漁業を支え、推進する」