MSC(海洋管理協議会)は北大西洋の沿岸国と漁業国に対し、政治的な手詰まり状態を終わらせ、長期にわたって交渉が続くタイセイヨウニシン、ブルーホワイティング、タイセイヨウサバ資源の漁獲枠配分に合意するよう強く求めています。これは、ヨーロッパを代表し、経済的にも重要な2つの水産資源であるタイセイヨウニシンとタイセイヨウサバの資源量に懸念が示され、減少傾向が継続していることを表す新しい科学的データが国際海洋探査委員会(ICES)によって提示されたことを受けたものです。
タイセイヨウニシンの資源量は2008年の690万トンから現在310万トンまで減少しており、漁業の持続可能性に必要とされる資源量の下限を下回っています。タイセイヨウサバの資源量は2015年の726万トンから現在280万トンに減少しており、こちらも限界に近い状況になっています。
ICESによると、タイセイヨウニシン、ブルーホワイティング、タイセイヨウサバの2023年の総漁獲量は科学的勧告による上限をそれぞれ33%、28%、35%超過しています。これらの漁獲量の上限は、水産資源の長期的な存続を保証するために推奨されているものであり、これを常に超過してしまうと、海の健全性はもとより、海によって支えられる経済や生活を脅かすことになります。
MSC独自の分析では、過去7年間だけを見ても、タイセイヨウニシン、ブルーホワイティング、タイセイヨウサバの総漁獲量は科学的勧告による漁獲量を31%も上回っていました。これは、科学的勧告に従っていれば、530万トン以上の水産資源を海に残すことができたことを示しています。
最新のICESの勧告では、タイセイヨウサバの2025年の漁獲量を22%減らし、総漁獲枠を576,958トンとすることが推奨されています。ICESは、既に2023年にタイセイヨウニシンの漁獲量を44%削減することを提言していました。しかしながら、科学者らは、今後数年間はより多くの稚魚の加入が期待できるとし、科学的勧告による漁獲量を3%増加させられるとしています。それでもなお、科学的勧告に沿った漁獲枠を設定して、それを確固たる漁獲戦略とともに長期管理計画に組み込むために、早急に行動することが求められます。
これらの3つの資源を漁獲しているのは世界でも経済的に豊かな国々ですが、科学的勧告に従った漁獲枠の割当てについて各国政府が合意に達することができない手詰まりの状況が続いています。合意に達するどころか、各国が独自の漁獲枠を設定しており、個々の漁獲枠を合わせた総漁獲量が科学的勧告を上回るものになってしまっています。各国政府が合意に達することができずにいるために、北東大西洋のこの3つの資源すべてについて過剰漁獲が毎年続いている状況です。タイセイヨウサバの資源に関しては、イギリス、ノルウェー、フェロー諸島の間で部分的な合意に達する一定の進展が見られます。この水産資源を適切に管理することによって得られる恩恵を享受するためには、このような合意をすべての関係国間における漁獲枠の包括的合意にまで拡大することが必要です。
MSC北欧地域ディレクターであるエリン・プリドルは次のように述べています。「タイセイヨウニシンとタイセイヨウサバに関する最新のデータは非常に憂慮すべき状況を表しています。これらの魚種は海洋生態系や世界の水産物サプライチェーン、人々の生活にとって欠かすことができないものです。各国政府はこれらの資源を将来の世代のために守るために、一刻も早く科学的勧告にのっとった漁獲枠の割当てに合意しなければなりません。2024年10月に予定している沿岸国会議は、北東大西洋の沿岸国と漁業国にとって、タイセイヨウサバ資源の部分的合意をさらに進展させ、北東大西洋における3つの小型浮魚資源に関する包括的な漁獲枠配分の合意に至ることができる重要な機会です」
北東大西洋の小型浮魚漁業のMSC漁業認証は、関係国間での明確に定義された漁獲制御ルールおよび漁獲戦略を含めた包括的な漁獲枠割当ての合意に至ることができず、2019年と2020年に一時停止となりました。認証の一時停止によって持続可能な水産物の消費者への供給は大幅に減少しました。
注記:
ICESによる勧告:タイセイヨウサバ(英語)
ICESによる勧告:タイセイヨウニシン(英語)
複数の国家間による漁業では、漁獲枠などを決定するための指針を事前に定めた漁獲戦略を用いた効果的な管理が必要となります。こうした漁獲戦略では、資源量の変化に応じた管理措置の決定を自動化することで、必要な政治的交渉を減らし、時間と人的リソースを節約すことができます。漁獲戦略は、水産資源の長期的な持続可能性がもたらす利益を確実なものにするだけでなく、市場へのより安定的で予測可能な供給を可能にし、水産業界と環境に便益を与えるものです。