海洋管理基金が2023年度に助成するプロジェクトが決定しました。サメに衛星タグ(発信機)を付けて追跡し生存率を把握する試みや、絶滅の危機に瀕したウミガメをリリースするための特殊な機器の利用、LEDライトを使った海鳥の混獲回避のプロジェクトなどが対象です。
今年度で4年目を迎えるMSCの海洋管理基金では、MSCラベルの付いた持続可能な水産物の販売を通じていただいているラベル使用料の5%を基金に充ててきました。また、第三者からの寄付を募ることで、基金の規模と対象をさらに拡大しています。MSCは先日、海洋管理基金を通して持続可能な漁業の拡大を世界中で加速させるために、今後10年にわたって1億米ドルの助成金を準備するという野心的な目標を発表しました。
海の生物多様性の減少が世界的に懸念される中、今年度の助成金は、漁業対象でない魚やほかの生物が網などの漁具にかかってしまう混獲を軽減するための研究に特に重点が置かれ、オーストラリア、グリーンランド、エクアドル、パプアニューギニア、アラスカのプロジェクトが助成金授与の対象になりました。
総額934,430米ドルの助成金は、15カ国の漁業、科学者、NGO、学生による26件のプロジェクトに授与されます。この助成金の40%は、南アフリカやメキシコなど、持続可能な漁業に向けた改善に取り組んでいる新興経済国の漁業の支援に充てられます。
今年度の助成金の対象となったプロジェクトには、以下のようなものがあります。
- アラスカでは、新しいアプリの開発に助成金が充てられます。サケの漁業者はこのアプリを利用し、コバシウミスズメやマダラウミスズメとの接触を記録することで、こうした海鳥が直面している脅威の軽減を目指します。これは、先住民コミュニティの主導による取り組みです。
- エクアドルでは、漁業の操業中に偶然網にかかったクロトガリザメにタグを付けて追跡する研究プロジェクトに対して助成金が活用されます。サメをリリースする際に衛星技術を使用して追跡し、科学者による生存率の推定を支援することで、この脆弱な種の保護を強化することができます。
- インド洋のレユニオン島では、助成金を活用して漁業者に研修および専門的な装備を提供することで、脆弱な種であるアカウミガメを安全に扱い、リリースすることができるようになります。このプロジェクトの一環として、漁業者が自分の位置をGPSで確認することで、アカウミガメとの接触を避ける取り組みも開始される予定です。
海洋管理基金は、設立以来、持続的な変化をもたらすため、計100件以上のプロジェクトに総額490万米ドルの助成金を授与してきました。こうした助成金は、水産資源の健全性の向上、漁獲量の適切な管理、海底環境の特定と分布図の作成などによる海洋環境の保護などを目的とした、幅広いプロジェクトの支援に充てられています。
MSCの最高責任者、ルパート・ハウズは次のように述べています。
「2023年度の海洋管理基金受賞者の皆様にお祝い申し上げます。これらのプロジェクトによって、混獲や、漁業者と脆弱な生物、鳥類との接触の減少につながることで、漁業の改善に役立つ新たな知見を得ることができるでしょう。
漁業者、NGO、科学者が共同で助成金を申請し、部門を超えた連携が実現したのは喜ばしいことです。このようなパートナーシップは、問題解決力を向上させ、海が直面する緊急の課題に対応するために不可欠なものです。MSCは、海洋管理基金によって既にあるほかのリソースも活用し、助成金の対象を超えて真の持続的な変化をもたらすようなプロジェクトを特に歓迎します。
世界人口が増加する中にあって、生計を海に依存するコミュニティの雇用を支え、栄養価の高い健康な水産物を供給する海は、今後ますます重要な存在となるでしょう。海洋管理基金は、海の潜在能力を活用するために必要な革新と進歩を促進するために支援を行っていきます」
注記:
- 過剰漁獲と混獲は、海の生物多様性損失の主な要因となっています。WWF:「生きている地球レポート2020」(英語)
- 世界中で年間漁獲量の10.1%に当たる910万トンが投棄され、絶滅危惧・保護種の少なくとも2,000万個体が漁業と接触していると推定されています。FAO:「世界の海洋水産資源投棄の第3次評価(2019)」(英語)
海洋管理基金について
MSCは、MSCラベルを付けた水産物の販売からいただく年間商標使用料の5%を海洋管理基金に充てています。