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過剰漁獲を終わらせ、世界の数百万の人々の栄養不足に対処する

Photo of Rupert Howes

ルパート・ハウズ

MSC最高責任者

世界の人口は2050年には100億人に達すると言われています。食料システムや環境にはすでに大きな重圧がかかっているため、今後の課題に対応するための新しい考え方が求められています。その出発点として、水産資源の持つ可能性を認識することが重要です。

海は地球の70%以上を占めており、30億人以上の人々のタンパク質は海から供給されています。しかし、各国政府は人々に食料を供給する水産資源の役割を軽視し、でんぷん質を多く含む野菜や赤身肉の生産など、陸上での解決策を優先してきました。

こうした政策は厳しい現実をもたらしています。国連の食糧農業機関(FAO)が発行した「世界の食料安全保障と栄養の現状」によると、高カロリーで栄養価の低い食品による健康被害は、数百万件を超える早期死亡をもたらし、赤身肉の摂り過ぎは、心臓病など、予防できたはずの深刻な病気の原因となっており、今や世界でトップの死亡原因となっています。

国連および第一線の科学者たちは、水産物を食料政策の中心に据えるよう各国政府に働きかけていますが、これには確固たる理由があります。25の大学を代表する100人以上の科学者らの協働プロジェクト「ブルーフード・アセスメント」によると、水産食品は地球上で最も栄養価の高い食品の一つであるにもかかわらず、十分に活用されていないのです。

例えば、天然魚を対象とする漁業について、国連は天然魚の漁獲量が2030年には9,600万トンに達すると予測しています。また専門家らは、過剰漁獲を終わらせることで、さらに1,600万トンもの漁獲が見込まれるとしています。

このことは、人々の健康にとっても大きな恩恵となる可能性があります。ハーバード大学の「水産食品栄養組成データベース」は、3,500以上の水産食品と数百の栄養素に関する世界で最も包括的なデータベースですが、このデータを基にMSCが行った分析によると、水産物の漁獲量が1億1,200万トンに増えれば、より多くの人々が必須栄養素およびビタミンを摂取できるようになることがわかりました。

漁獲量が増加することで、400万人の鉄分不足と1,800万人のビタミンB12不足などが解消されます。また、世界的な公衆衛生の問題である、5歳未満の幼児の約半数と妊婦の40%が罹患している貧血の緩和にも役立ちます。

同様に、水産物に主に含まれる必須脂肪酸であるオメガ3脂肪酸(DHAとEPA)を十分に摂取できていない3,800万の人々も、持続可能な漁業が行われることで、1日に必要な量を摂ることができるようになります。もちろん、単に水産物の量を増やすことのほかにも解決すべき課題はたくさんあります。水産物へのアクセスの改善も課題の一つであり、最も悪い栄養状態の人々に水産物の供給を確保しなければなりません。しかし、利用できる水産物が1,600万トンも増えることによって、幸先のよいスタートを切ることができるのです。

気候変動の影響から、食料を確保することが難しくなっていますが、天然の魚介類は、土地や淡水を必要とせず、汚染物質も少ないため、ほかの多くの食品よりも優れていると言えます。そして、水産物の生産による二酸化炭素の排出は、赤身肉の生産に比べて、はるかに少ないのです。

天然の「ブルーフード(魚介類や藻類)」による恩恵を享受するためには、各国の政府は海をもっと大切にしなければなりません。世界の水産資源の3分の1がいまだに過剰漁獲されている現在、政策立案者は海洋の管理を食料戦略の中心に据える必要があります。持続可能な海洋管理を行う漁業者が認められ、彼らの意見が尊重され、支援を受けられるようなルールを策定することが重要です。そして、単に前に進めるのではなく、これまで積み重ねてきた成果を決して後退させないようにしなければなりません。

これは達成可能な目標であり、一般の人々からも支持されているものです。政府、企業、漁業者が支持する適切な漁業管理は、進歩を可能にするものです。最近の研究では、持続可能な漁業の対象となる水産資源は、そうでない水産資源に比べて、より健康で回復力があることが明らかになっています。また、独立調査分析機関が23カ国で実施した消費者調査からは、海の将来に関する不安の高まりとともに、持続可能な方法で生産された水産物に対する需要がこれまで以上に高まっていることが明らかになっています。

世界の人々の健康と生活を向上させるための変化は実現可能です。しかしそのためには、将来の世代のために膨大な水産資源を保護することの重要性に、政策立案者たちが気付かなくてはならないのです。