2021年のシーフードにおける最大のトレンドは何だと思いますか? シーキュトリー(海の「Sea」と、ハムやソーセージなどの加工肉の総称である「シャルキュトリー」を組み合わせた造語)や、ヒレからエラまでを無駄なく使った魚料理、現場の声や淡水魚の缶詰など、世界のMSCアンバサダーとサステナブル・シーフードの専門家が、今年の主な動きを予測します。
1. シーガニズム(シーフードとヴィーガニズムの合成語)
この10年間、ペスカタリアン(肉は食べないが魚を食べる菜食主義者)やフレキシタリアン(時には肉、魚も食べる柔軟な菜食主義者)の数が増えてきましたが、2020年代に入って新たに台頭してきたのがシーガンです。これは、菜食主義の食生活をしながらも、タンパク質を補うために時おり持続可能なシーフードを取り入れる人たちです。シーガンは食生活にバラエティーを持たせるためだけでなく、従来のヴィーガン食ではなかなか摂取できない高品質のオメガ3脂肪酸を摂るためにシーフードを取り入れるようにしています。
シーガニズムは、アメリカやイギリスなどで再び着目されるようになった地産地消運動とうまくつながっています。ロックダウンや海外旅行の制限に加え、食品の産地への意識の高まり、地元の農家や漁業者を支援したいという思いから、地産地消が改めて見直されるようになってきました。イギリスのスーパーマーケット、ウェイトローズは、「2021年 食品・飲料年次報告書」で、国産シーフードの売上が過去6カ月で3倍になったと報告しています。
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2,3 シーキュトリーと、ヒレからエラまで無駄なく使った魚料理(フィン・トゥ・ギル)
シーフードのシェフや食のパイオニアたちは、食肉業界における過去10年間の2大トレンドである自家製のシャルキュトリーとノーズ・トゥ・テール(鼻先から尻尾まで無駄なく食べる)の考え方をシーフードに応用した「シーキュトリー」と「フィン・トゥ・ギル(ヒレからエラまで)」料理に着目しています。
シーキュトリーについては、オーストラリアやアイルランドなどのシェフたちが、生魚のおろし方や燻製などの調理方法を試みながら腕をふるっています。今後、レストランのメニューには、マグロと唐辛子を使ったサラミならぬ「シーラミ」や、イタリアのポークソーセージであるモルタデッラのイカ版、スモークサーモンや生ハムに代わりスモークしたカラスガレイの薄切りなどのシーキュトリーが登場するでしょう。
コストと持続可能性を気にするシェフが魚のあらゆる部位を使うようになるのは当然のことでした。こうした魚の廃棄物ゼロ運動におけるパイオニア的存在が、オーストラリアのシドニーでシーフードシェフを務めるかたわら鮮魚店を営むジョシュ・ニーランド氏です。
彼の料理本はまさに魚料理のバイブル。これまで廃棄されていた部位を使ったシーフード料理には無限の可能性があり、肉の内臓料理と同じように、とてもおいしく食べられるものがあります。今後10年のうちに、魚の頭のスープをはじめ、サーモンの舌のバーベキューや、中落ちを使ったタルタルステーキやバーガー、フライパンで炙ったカラスガレイの頬肉やカマ、魚の目玉のクラッカー、サーモンの皮を焼いた油で作ったアイオリソースといった料理を提供するシェフが増えてくることが予想されます。
こうしたアイデア料理の中には、下ごしらえが面倒で、なかなか手強いものもありますから、家庭では魚のアラで出汁をとるところから始めた方がよいかもしれません。
「2021年は、魚介類のすべての部位を無駄なく使うことに関心が高まってくると思います。現在、ほとんどの国では、魚の半分近くが下処理後に廃棄されてしまっています。貴重なタンパク質なのですから、これはもったいないことです」と語るのは、アイスランド・オーシャン・クラスターの創設者で、“The New Fish Wave: How to Ignite the Seafood Industry(水産物のニューウェーブ:水産業界を活気づけるために)”の著者であるトール・シッフーソン氏です。
「2021年には状況が一転し、世界で水産物由来のタンパク質が1,000万トンも無駄にされていることに注目が集まるようになるでしょう。」
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4,5 淡水魚と牡蠣を使った新感覚料理
「フィンランドではこのところ、パイクやローチ、パーチなど小型の国産魚がエシカルだ(環境や社会に配慮した)と人気を集めており、『ツナの代用品』として、キャノーラオイル漬けの缶詰が販売されるようになりました」と語るジェスパー・ビョーケル氏は、フィンランドのレストランチェーンHanko Sushiの人気シェフで、MSCアンバサダーです。
フィンランドの美しい湖で獲れた淡水魚を使った新感覚の料理としてはこのほかにも、魚のほぐし身にスパイスで味をつけた魚版「ケバブミート」、白身魚とパイクのタール風味のマリネ、スモークチーズを添えたパイクステーキなどがあります。
隣国のスウェーデンでは、将来の世代のために持続可能な天然水産物を残そうと、小規模なパイクパーチ淡水漁業がMSC認証を取得しています。
「また、生牡蠣の試食会がレストランや高級スーパーで催される機会が多くなってきました。そこでは、シャンパンを片手に色々な種類の牡蠣を味わうことができ、品種の違いについての説明や、それぞれに合った調理法やワインとのペアリングについて、牡蠣の専門家からのアドバイスを受けることができます。」
6. シーフードのデリバリーとテイクアウト事業の成長
ベルギーのレストラン経営者で、MSCアンバサダーのヤン・ケーゲル氏は、コロナウイルスによるロックダウンの間、ベルギーのすべてのレストランが休業を余儀なくされたために、デリバリーやテイクアウトを始めるところが急速に増えた、と述べています。
「レストランのミールキットが人気でした。私たちの店Jean Sur Merでは、ピクルスとハラペーニョソースを添えたマダラのバーガーや、エビコロッケにルイユソースを塗って、フレッシュハーブと一緒にクリスピーなバンズでサンドしたシンプルなメニューをドライブスルーで提供しました。また、旨味たっぷりの牡蠣やロブスター、タラバガニなど、MSC認証シーフードを詰めた持続可能なフィッシャーマン・ボックスの宅配サービスも人気でした。こうした大きなトレンドは、2021年、レストランの営業再開後も続くでしょう。」
7. 説明責任、信頼できる生産者、豊富な資源
「2020年を教訓として、私たちは常に将来に備えておくべきです。危機からの学びを無駄にしてはいけません。2021年は、説明責任、信頼できる生産者、豊富な資源がキーワードとなるでしょう。」こう語るのは、グランドハイアットのシンガポールおよび東南アジア地域で料理オペレーションディレクターを務めるルーカス・グランヴィル氏です。
「シーフードはなんといっても資源が豊富なものを、その旬の時期に味わうのが一番です。消費者にとっても、シーズン中であればお手頃な価格で求めることができます。私たちは皆、海の未来に責任を持たなければなりません。サステナブルで責任ある選択をすれば、何世代にもわたって豊富な水産資源と海洋生物を守っていくことができるのです。」
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8. 海藻はスーパーフード
多くの人が健康的な生活を重視するようになった今、健康によいとされる植物性食品は好調な売上が期待できます。実際、海の野菜ともいうべき海藻の売り上げはここ10年で急上昇しています。食品企業は、シーフードのナゲットや海藻バーガー、調味料、バター、天日干し海藻スナックなど、あらゆるものに海藻を加えています。
また、ニューヨークのシェフ、デビッド・チャンはサツマイモと昆布のスパイシーサラダを、イタリアのシェフ、ファブリツィオ・フェラーリは海藻のペーストを考案し、おいしさだけでなく、人や海の健康にもよい食材である海藻への関心を促すために取り組んでいます。
「海藻は非常に栄養価が高いうえにおいしいです」と語るのは、ASC(水産養殖管理協議会)/MSC海藻アカウント・マネージャーのパトリシア・ビアンキです。「海藻はアジアでは昔から食されてきましたが、欧米諸国でも多くの人が海藻を味わうようになってきています。世界の海藻生産量が急速に伸び、その経済的価値も高まってきているため、海藻を持続可能な形で管理することが不可欠です。」
認証のワカメ、昆布、ひじき、海苔もあります。日本の出汁と同じように味噌汁や麺類のスープに加えると旨味が増します。また、調理法によっては、サラダや炒め物にパリッとした食感やベルベットのような食感を与えることができます。
モルディブの一本釣りマグロ漁業者 © Nice and Serious / MSC
9. 心に残るストーリーの必要性
北西太平洋の荒波の中を5日間にわたって操業するカラスガレイ漁船や、インド洋のカツオの一本釣り漁業で漁師が経験することは、消費者にとってとても遠い出来事のように思えます。しかし、漁業の背景にあるストーリーを知ることで、消費者が水産物を選ぶ際に参考にすることができます。
今後10年間、より多くの水産ブランドが、魅力的なストーリーを通じて、MSC認証を取得した生産者のユニークなセールスポイントをアピールしていくことでしょう。オランダを拠点とする発展途上国輸入促進センターは、認証の取得が、製品の信頼性を証明する手段であるとしています。
ストックホルムで北欧テイストの和食を提供するレストラン、Takの料理長、フリーダ・ロンゲ氏はこう語っています。「水産物とその供給源への関心は今後ますます高まります。持続可能な方法で漁獲されているかどうかはもちろん、働く人々の社会・労働環境も重要視されるようになってくるでしょう。」
10. フィッシュスキン技術の拡張
カナダのMSCアンバサダー、ティアレ・ボイス氏は、海洋保護活動家として、また漁業者として、漁業におけるイノベーションの重要性を痛感しています。「限りあるこの青い惑星のためには、再生可能な海洋資源をより効率的かつ持続可能に利用するための技術革新が必要です。MSCは、私のような消費者が水産物を購入する際に持続可能な漁業による製品を選びやすいようにしてくれています。また、漁獲された水産物の非食用部分も利用されるように活動している団体もあります。」
ボイス氏は、米国をはじめ世界各国で再生医療に取り組んでいるケレシス社に注目しています。同社の取り組みでは、糖尿病の創傷による下肢切断の予防や、ほかの組織損傷の治療に魚皮が使われています。持続可能な漁業から供給された魚皮は、天然のオメガ3多価不飽和脂肪酸を豊富に含んでおり、それを利用した移植片は健康な皮膚の再生を促す細胞外基質の役割を果たすことになるのです。