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過剰漁獲は、海洋生物や生物多様性を脅かす深刻な問題です。海洋生物を失うことは、水産物によってタンパク質を摂取し、生計を立てている多くの人々にとっても脅威となります。

過剰漁獲がなぜ問題なのか

過剰漁獲は、特定の魚種資源を獲り過ぎることによって、健全な個体群を維持していくために必要な成魚の数が足りなくなってしまうことで起こります。

過剰漁獲はここ数十年で増加の一途をたどっており、過剰漁獲された水産資源の数は1970年に比べ3倍になっています。国連食糧農業機関(FAO)は、世界の500以上の水産資源のモニタリングを行っていますが、2024年に発表した『世界漁業・養殖業白書』では、これら水産資源の37.7%が過剰漁獲されたと推定しています。

水産資源の崩壊は、漁業で生計を立てている地域コミュニティに壊滅的な影響を及ぼしかねません。また、過剰漁獲は海洋の生物多様性が失われる主な要因のひとつであることから、海洋環境にとっての懸念事項になっています。

過剰漁獲の要因

過剰漁獲の要因としては、以下が挙げられます。

  • 水産物消費量の増加:世界の人口は2022年11月に80億人に達し、2050年までにはほぼ100億人に達すると予測されています。水産物(養殖および天然)の消費量は、世界人口が増加するスピードの2倍の速さで増えています。
  • 気候変動:海水温の上昇によって水産資源の回遊ルートが変化し、これまでの漁場からの移動が起きます。漁獲対象種の一部が新しい漁場へと移動したにもかかわらず、漁業が以前と同じ量の漁獲を続けると過剰漁獲が起こります。
  • IUU(違法、無報告、無規制)漁業:保護区内で漁獲したり、漁獲量の一部を報告しないなど、国内および国際的な規制を守らずに漁獲を行うことです。
  • 漁業補助金:各国政府による、自国の漁業を支援するための補助金は何十億ドルに上ると推定されます。時には、漁獲による収入だけでは漁業の経費をまかなうことができないような、過剰漁獲を行っている区域の漁業を支援している場合もあります。このような場合、補助金は持続可能ではない漁業を促進することになってしまいます。

持続可能な漁業とは?

海に十分な水産資源を残し、生息域や生態系への影響を最小限に抑えながら漁獲を行っている漁業が持続可能な漁業です。持続可能な漁業を行うためには、漁業が適切に管理されていなければなりません。
持続可能な漁業とは?

過剰漁獲がもたらすもの

天然魚介類を対象としている漁業にはおよそ3,800万人が従事しています。FAOの『世界漁業・養殖業白書2020』によると、漁業、養殖業を含む水産業を少しでも生計の糧としている人の割合は世界人口の10%です。

水産資源が崩壊した場合、その影響はすぐに表れますが、資源を回復させるには数十年かかることもあります。1992年にカナダのグランドバンクスでマダラ漁業が崩壊した際は、400を超える沿岸コミュニティで35,000人もの漁業者と加工業者が失業へと追い込まれました。

水産物はまた、タンパク質やビタミン、ミネラルといった微量栄養素の重要な供給源でもあります。世界で30億人以上がタンパク質の摂取を水産物に依存しており、1日の動物性タンパク質摂取量の少なくとも20%を水産食品でまかなっています。

Colourful coral with shoal of small fish and manta ray swimming above

過剰漁獲が生物多様性に及ぼす影響

生物多様性、生き物の生息地、生態系の保護は、気候や清浄な空気、水、食料を維持するために不可欠ですが、過剰漁獲が影響を及ぼしかねません。

生物多様性への影響は、食用の水産資源の過剰漁獲のみでなく、意図せず漁獲される生き物の獲りすぎによっても起こり得ます。これには、絶滅危惧種に分類されるようなサメやエイ、ウミガメなども含まれます。例えば、サメがいなくなると、サメが捕食する生き物や食物連鎖における下位種に影響を及ぼし、生物多様性に悪影響を与えます。

過剰漁獲を止めるためにできること

過剰漁獲を止めるには、漁業をやめればいいということではありません。持続可能となるよう管理されている漁業は、環境にとってよりよいものであり、長期的にはより生産性が高まります。

もしすべての漁業が持続可能となるように管理されれば、漁獲量は年間でおおよそ1,600万トン多くなり、7,200万人分のタンパク質の増加が見込めます。

増え続ける人口をいかにして支えていくかについて世界が頭を悩ませている中で、持続可能な方法で生産された水産物が果たす役割はますます重要になっていくでしょう。

過剰漁獲の問題は深刻な状況にありますが、消費者は持続可能な水産物をより入手しやすくなっています。FAOの「ブルー・トランスフォーメーション」に関する報告書に記載の2019年の数字では、魚介類の水揚げ量の82%が持続可能となるよう管理された資源からのもので、4%近く増加しています。これは、特にマグロ・カツオ類、スケトウダラ、カタクチイワシといった人気の魚種について、消費者が持続可能な水産物の選択をよりしやすくなってきていることを示しています。

改善し続けるMSC認証取得漁業

改善し続けるMSC認証取得漁業

漁業は、十分な資源がある漁獲対象の魚を漁獲する際、生息域やほかの海洋生物への影響を最小限に抑えていることを示す必要があります。

過剰漁獲に対するMSCの取り組み

MSCは過剰漁獲の問題に対処するために設立されました。MSCの漁業認証規格は過剰漁獲の防止において大きな役割を果たすことができるものです。

世界の水産物漁獲量のほぼ5分の1が、MSC漁業認証を取得しているか審査中の漁業によるものです。MSCの規格は水産物の持続可能性のための規格として世界的に認知されており、国際的に認められた水産科学および管理に関する最新の知見が反映されています。

MSC漁業認証規格を構成する要求事項は、持続可能な漁業として認証の取得を目指す漁業が、豊富で生産性が維持されている水産資源のみを対象とし、漁業による海洋生態系への影響を最小限に抑えることを確実にするためのものです。この規格ではまた、漁業が適切に管理されており、漁業に関する地域での取り決めや国内法、国際的なルールを遵守していることも求められています。

審査は第三者の審査機関によって実施され、要求事項を引き続き満たしているか確認するための監査が毎年実施されます。

MSCによる2022年の調査では、MSC漁業認証を取得した漁業が漁獲の対象としている魚種資源は、認証を取得していない漁業が対象としている資源よりも、持続可能性における重要な指標において良好な結果を示しています。こうした水産資源はより健全であり豊富で、過剰漁獲が起こりにくい資源となっています。